美しいゴキブリを新種として発表
~種の保存法における緊急指定種に指定され、捕獲・殺傷・販売すると罪に問われることに~
発表のポイント
・宮古島からみつかったゴキブリ類(昆虫亜綱)をベニエリルリゴキブリ(新種)として発表
・新種ゴキブリは,与那国島にのみ生息するウスオビルリゴキブリとともに令和3年7月1日から令和6年6月30日までの3年間指定される.種の保存法における緊急指定種に指定され,ゴキブリで初めて捕獲・殺傷・販売などが法律下で禁止される
・森林で分解者として有益な森林性ゴキブリ類の日本での多様性解明を一歩進めた
ルリゴキブリ属のゴキブリは日本では近年まで石垣島、西表島に生息するルリゴキブリEucorydia yasumatsuiの1種のみが知られていた。しかし2020年11月、竜洋昆虫自然観察公園の柳澤静磨職員,鹿児島大学の坂巻祥孝准教授,法政大学の島野智之教授らからなる研究チームの研究で宇治群島家島、吐噶喇列島悪石島、奄美群島奄美大島、徳之島に分布するアカボシルリゴキブリEucorydia tokaraensis 、与那国島にのみ生息するウスオビルリゴキブリEucorydia donanensisの2種を発見、新種として記載した。これによって日本産ルリゴキブリ属は3種となったが、さらに今回、同チームは沖縄県宮古島から新たにルリゴキブリ属のゴキブリを発見、新種として記載した。
ゴキブリは害虫として知られ「黒い」「汚い」イメージであるが、日本(南西諸島)を北限として、東南アジア、南アジアまで分布するルリゴキブリ属のゴキブリは、いずれも非常に美しい青色の金属光沢や、鮮やかな橙色の紋などを持ついわゆる美麗種である。人家に出入りすることはなく、通常,森林内の朽ち木内などで、腐植質などを餌に生活をしている。
現在、日本産ゴキブリは61種(2021年6月に他のゴキブリ新種が追加されたため)が知られており、今回1種を新種として記載したため、合計62種となった。このうち、人家の中に出現するのは1割程度であり、それ以外のゴキブリは、森の朽ち木や洞窟などに生息して、朽ち木などの有機物を食べて生活しており、人間とはほとんど関わりのない生活をしている。
今回記載されたベニエリルリゴキブリEucorydia miyakoensis(ユーコリディア・ミヤコエンシス)は宮古列島宮古島にのみ生息し、オスの全長が12.5~13.0 mm、上翅の基部に黄赤色の微毛を持ち、上翅中央部には明瞭な黄赤色の帯状紋を持つことが特徴である。
今回の研究では日本産のルリゴキブリ属の系統関係を解明するためにDNA解析を6遺伝子座に関して行った。その結果、日本産のルリゴキブリ3種とは,明瞭に別種となり,我々の形態による分類の結果を支持した。
本ゴキブリ種は宮古島にて生息可能な環境が非常に限られていることから、絶滅の危機に瀕している可能性がある。ルリゴキブリ類はオークションで野生個体の取引もあり、今回新種として発表されることにより注目を集め種の存続に重大な支障が生じる恐れがある。そのため、昨年11月に与那国島から記載されたウスオビルリゴキブリEucorydia donanensisとともに2021年7月1日、「種の保存法」における緊急指定種として指定され,捕獲・殺傷・販売などが法律下で制限される。日本におけるゴキブリ類の「種の保存法」における国内希少野生動植物種または緊急指定種への指定は初めてである。
忌み嫌われているゴキブリとはいえ、彼らは生態系の1ピースであり、分解者として重要な役割を持っている。自然を保護していくためには,人気者だけを保護すればいいのではなく、生態系を広く捉え、保護が必要と考えられる種にはそれがたとえ人間から嫌われている生き物であろうと、適切な対応を行っていくことが重要である。今回の発表は、多くの方にゴキブリという生き物や、生き物を保護することへの関心をもっていただく機会になると考えている。
■発表雑誌: Species Diversity
■論文タイトル: A new species of the genus Eucorydia (Blattodea: Corydiidae) from the Miyako-jima Island in Southwest Japan
■著者: Shizuma YANAGISAWA, Shinpei F. HIRUTA, Yoshitaka SAKAMAKI,
and Satoshi SHIMANO
■ 2021 年6 月17 日 出版
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