ゴキブリ属Periplanetaの整理と命名規約について【雑記】

 2025年4月、形態学的および分子生物学的解析に基づくゴキブリ目ゴキブリ亜科の改訂に関する論文が出版されました。

Luo X, Deng W, Han W, Lo N, Cai J, Che Y, & Wang Z. 2025. Revision of the cockroach subfamily Blattinae based on morphological and molecular analyses. Systematic Entomology, 1–19.

 注目なのはこれまで多系統であると考えられていたPeriplaneta属を整理した点です。様々な論文が出る中で、いつ大きな改定が行われるか注視していたのですが、思ったよりも早く論文が出ました。今回は日本産の所属変更とそれに関わる命名規約のあれこれについて書いていきたいと思います。

 まず、日本ではこれまで以下10種のPeriplanetaが確認されていました。

  • ワモンゴキブリPeriplaneta americana (Linnaeus, 1758)
  • コワモンゴキブリPeriplaneta australasiae (Fabricius, 1775)
  • トビイロゴキブリPeriplaneta brunnea Burmeister, 1838
  • クロゴキブリPeriplaneta fuliginosa Serville, 1838
  • ウルシゴキブリPeriplaneta japanna Asahina, 1969
  • ヤマトゴキブリPeriplaneta japonica Karny, 1908
  • スズキゴキブリPeriplaneta suzukii Asahina, 1977
  • ツヤアカゴキブリPeriplaneta gajajimana Komatsu, Iio & Ooi 2021
  • アカズミゴキブリPeriplaneta kijimuna Yanagisawa, Ohgita & Komatsu, 2021
  • トルキスタンゴキブリPeriplaneta lateralis (Walker, 1868)

 

今回の整理で、新たに5属が設立され、日本産Periplaneta属も以下のように振り分けられました(Unihamus属、Arcicaulis属、Tenumembrana属は日本には生息していません)。

Peliplaneta

  • ワモンゴキブリPeriplaneta americana (Linnaeus, 1758)
  • トルキスタンゴキブリPeriplaneta lateralis (Walker, 1868)
  • ウルシゴキブリPeriplaneta japanna Asahina, 1969
  • スズキゴキブリPeriplaneta suzukii Asahina, 1977

 

Fortiblatta

  • コワモンゴキブリFortiblatta australasiae (Fabricius, 1775)
  • トビイロゴキブリFortiblatta brunnea (Burmeister, 1838)
  • クロゴキブリFortiblatta fuliginosa (Serville, 1838)
  • ツヤアカゴキブリFortiblatta gajajimana (Komatsu, Iio & Ooi 2021)

 

Crescispina

  • ヤマトゴキブリCrescispina japonica (Karny, 1908)
  • アカズミゴキブリCrescispina kijimuna (Yanagisawa, Ohgita & Komatsu, 2021)

  

 この内、スズキゴキブリとウルシゴキブリは検討が行われていないためPeriplaneta属に残っていますが、今後の研究で所属が変更されると考えられます。

 ついに行われた改定ということで興奮して論文を読み、友人のゴキブリ研究者と話もして楽しんでいたのですが、そこであることに気づきました。

 新設されたFortiblatta Luo & Wang, 2025という属ですが、Fortiblatta Liang, Vršanský & Ren, 2009という同じ名前の属が化石種のゴキブリですでに記載されていたのです。

 動物の命名は国際動物命名規約という規約に則って行われます。様々なルールがあるのですが、そこには以下のようにあります。

条52.同名関係の原理

52.1.同名関係の原理の声明

複数のタクソンが互いに識別されるとき、それらを同一の学名で示してはならない。

 

52.2.同名関係の原理の運用

複数の学名が同名であるときは、先取権の原理(条52.3を見よ)を適用して決定される古参名のみを有効として使用することができる。除外されるものについては、条23.2と23.9(使用されて いない古参同名)および条59(種級群における二次同名)を見よ 

53.2.属階級群における同名

属階級群においては、複数の格名であって同一の綴りで設立されたものは、同名である。

例. 属名 Noctua Linnaeus.1758(鱗翅類)とNoctua Gmelin.1771(鳥類)は同名である

 このように、動物命名法の適用範囲において、全く同じ属名を使用することはできません。使用してしまった場合は基本的には先取権によって古参の学名のみ有効となります。つまり今回記載されたFortiblatta Luo & Wang, 2025は無効名となってしまうのです。

 Wang教授に連絡したところ、修正または追加論文を出すとのことでしたので、近いうちに解決するものと思われます。このような経緯があり、当HPの日本産ゴキブリ類種目録ではFortiblatta Luo & Wang, 2025に含められた種は暫定的にPeriplanetaを使用しています。

 今回の件で命名規約や同名について改めて調べたことはとても勉強になり、いい機会でした。今回に関しては記載されていた属が現生の属ではなかったという点が被ってしまった理由として大きいのかなと思います。論文の内容は非常に価値のあるものであるため、重箱の隅をつつくような記事を書くのもどうかなと思ったのですが、クロゴキブリという日本のゴキブリ界における重要種が含まれている属であるため、筆をとった次第です。

 今後どのような名前がつくのか、楽しみです。進展がありましたらまた書きたいと思います。

引用文献

野田泰一・西川輝昭, 2005. 国際動物命名規約第4版(日本語版).

タイトルとURLをコピーしました