【研究紹介】56年前にタイで採集された標本群からゴキブリの新種を発見!【新種発見】

56年前にタイで採集された標本群からゴキブリの新種を発見!

〜ゴキブリ類の分類に多大な貢献をした朝比奈正二郎博士が残したタイの標本を見直したら新種だった!〜

イツツボシルリゴキブリE. asahinai

発表のポイント

・タイのチェンマイから採集されたゴキブリ類(昆虫亜綱)をイツツボシルリゴキブリ(新種)として発表

・本ゴキブリは56年前に採集され朝比奈コレクション標本として保管されていた。今回の研究で、既知種と比較が行われ新種として発表された

・森林で分解者として有益な森林性ゴキブリ類のタイでの多様性解明を一歩進めた

 ルリゴキブリ属のゴキブリは、東南アジア・南アジアから日本の南西諸島に分布している美麗なゴキブリである。今回、竜洋昆虫自然観察公園の柳澤静磨職員、鹿児島大学の坂巻祥孝准教授、プリンス・オブ・ソンクラー大学のジャンタリット・ソパーク博士、法政大学の島野智之教授からなる研究チームの研究で、タイのチェンマイから新種のルリゴキブリ属のルリゴキブリを発見、記載した。ルリゴキブリ属のゴキブリは日本では現在4種が知られており、このうちの3種は2020年と2021年に同研究チームによって新種として発表されている。

 ゴキブリは害虫として知られ「黒い」「汚い」イメージであるが、日本(南西諸島)を北限として、東南アジア、南アジアまで分布するルリゴキブリ属のゴキブリは、いずれも非常に美しい青色の金属光沢や、鮮やかな橙色の紋などを持ついわゆる美麗種である。人家に出入りすることはなく、通常,森林内の朽ち木内などで、腐植質などを餌に生活をしている。人間とはほとんど関わりのない生活をしている。

 ちょうど30年前に、ゴキブリの図鑑「日本産ゴキブリ類」(朝比奈,1991年)をまとめた朝比奈博士のゴキブリ類のコレクションが国立感染症研究所に残されている。この度、柳澤がこの標本群を詳細に調べたところ1965年に朝比奈博士ほかによって採集されたタイのルリゴキブリ2匹(オス・メス)が新種であることがわかった。チームはSpecies Diversity誌に、和名イツツボシルリゴキブリ(学名Eucorydia asahinai ユーコリディア・アサヒナイ)として命名、学名は朝比奈博士に献名し、新種として報告した。

 今回記載されたイツツボシルリゴキブリは現在のところタイのチェンマイのみから知られている。オスの体長14.5 mm、上翅に5つの微毛を伴う黄赤色の斑紋を持つことが特徴である。

 今回の研究は、昆虫標本が長らくしっかりと保管されていたことによって行うことができた。昆虫標本はこのように過去の自然環境を知る重要な手掛かりとして、活用されている。採集地は1981年に国立公園に指定されており生物多様性からも大切な地域だと考えられており、今回の新種記載も現地における自然環境の把握と保全に貢献できると考えている。

 今回の研究を通して、博物館などにおける標本の保管と蓄積の重要性について多くの方に知っていただく機会になれば幸いである。

■発表雑誌: Species Diversity
■論文タイトル: A New Species of the Genus Eucorydia (Blattodea: Corydiidae) from Chiang Mai in Northern Thailand
■著者: Shizuma YANAGISAWA, Jantarit SOPARK, Yoshitaka SAKAMAKI,
and Satoshi SHIMANO
■ 2021 年8 月6 日 出版

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